「水」をとおして「世界」とかかわる ~自治体の国際協力:名古屋市上下水道局~

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わたしたちが生きていく上で必要不可欠な水。日本ではほとんどの場所で、蛇口をひねれば飲むことのできる水を入手できます。しかし世界にはまだ、安全な飲料水の確保が難しい地域が多くあります。
2000年に採択された国連ミレニアム開発目標には「2015年までに、安全な飲料水と基礎的な衛生施設を持続可能な形で利用できない人々の割合を半減させる」という目標が掲げられました。この目標は2010年の段階で達成されたとの報告*1がありますが、それでもまだ不十分であることが指摘されています。
水はまた、衛生的な暮らしを支えるために大切なものです。アジアやアフリカなど、そうした設備が不十分な国がまだ多く存在しています。
みなさんは、こうした「水」に関して、名古屋市が国際協力を続けてきたことをご存知ですか。

 

名古屋市上下水道局の国際協力

名古屋市上下水道局の国際協力事業は、1978年11月、国際協力機構(以下、JICA)の技術協力の一環として、名古屋市の職員をタイへ派遣したところから始まりました。それ以降、期間の長短はありますが、漏水防止や水質管理などを中心に、水道技術の専門家として、職員を開発途上国に派遣しており、派遣総数は、2014年度末で28か国175名に上りました。こうした「専門家派遣」をはじめ、上下水道局では、大きく分けて四つのカテゴリーで支援を進めてきています。
二つ目は、海外からの「研修生の受け入れ」です。1983年にタイからの研修生を1名受け入れ、以来2014年度末までに、のべ97か国から1,495名を受け入れてきました。
三つ目は、JICA主催の「草の根国際協力事業」です。地方自治体が提案団体となり、JICAの採択を受けて事業として成立するもので、政府では手の届きにくい、実務レベルのきめ細かな協力を行っていこうとするものです。名古屋市は1978年にメキシコ市と姉妹都市提携を結んでいる関係もあり、2005年からの6年間、同市において水道の水質管理プロジェクトを展開しました。その後も、下水道事業で支援を続けています。また、2013年度からはスリランカでも、この事業を通じて配水管施工管理能力強化プロジェクトを実施しています。
四つ目は、「水ビジネスの海外展開」の支援です。途上国の水インフラの整備と併せ、水技術を生かして日本経済の振興・発展にもつなげていこうという国の方針を受け、そこにこの地方が持つ水技術を生かせないかという事が検討されています。世界の水問題解決のために中部地方の産官学が連携した「水のいのちと
ものづくり中部フォーラム」が発足(2009年 6月)、名古屋市も、産業界への経済活動支援及び国際貢献と
して、参加しています。

●日本のODA(政府開発援助)
政府や政府機関が、直接開発途上国に行う援助や出資であり、以下のものがある。
・有償資金協力(円借款):低金利で、返済期間が長い、ゆるやかな条件で開発資金を貸し付ける援助形態。
・無償資金協力:被援助国に返済の義務を課さない資金協力。
・技術協力:社会・経済の開発の担い手となる人材を育成するために必要な、日本の知識や技術、技能の移転や支援。専門家派遣や研修生の受け入れはここに含まれる。

座談会

今回は、名古屋市の国際貢献の中で、専門家として海外に派遣された4名の上下水道局職員に、現地での活動を伺うため、座談会を行いました。

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派遣先の水事情と支援事業
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遠藤:メキシコシティへは、下水道の専門家としてプロジェクトの最終評価のために行きました。
下水道はほぼ普及していましたが、集めた水の処理率はおよそ2割。それ以外は未処理のまま放流されており、農作物被害などの苦情が出ていたそうです。また下水道の歴史は非常に長いのですが、管の老朽化が進んでいる他、1985年のメキシコ地震被害で傷んでいました。しかしそうした状態を十分把握できず、管の損壊による道路の陥没や管の詰まり等の問題が起きてから対処していました。そのため、事故を未然に防ぐための事前調査の方法や管の改良の他、処理場における適切な水質管理やポンプ施設での機能確保のための
設備点検等に関する支援を行いました。

安田:スリランカのコロンボへは、下水道の専門家として、2年という長期で派遣されました。下水道が本格的に整備されているのは、一番大きなコロンボ市。イギリスの統治時代に整備されており、約90年の歴史があります。その分古く、管路も短い。名古屋市の下水管路は全長7,800キロあるのですが、コロンボではたった 320キロでした。
現地の課題は多く、下水処理の重要な過程である汚泥処理がうまくいってないことや、管路の維持管理・予防保全ができていないことでした。そこで、処理場での課題解決や図面のデジタル化と共に、計画的な予防保全を行うためのプラン作りで技術支援をしました。

高倉:同じくスリランカのコロンボには、水道事業の専門家として派遣されました。先ほどの話にもありましたが、イギリスの統治時代に設置された管が、現在もまだ使用されています。もちろん古いものは漏水があるので新しい管に替えるのですが、新しく替えた管からもすでに漏水していました。つまり、施工時の技術に問題があるのでは、と。スリランカから来日した研修生に技術指導をするのですが、そうした知識や技術が現地で共有されていることが少ないと感じ、職員が現地の地方事務所に直接出向いて指導する計画を立てました。

配水状況を現地のスタッフと調査(スリランカ)
配水状況を現地のスタッフと調査(スリランカ)

杉山:タイのバンコクに、水道事業の専門家として派遣されました。首都圏の面積は名古屋市よりも広くて人口も多く、名古屋の6倍の配水量でした。給水率(水道普及率)は92%です。ただ無収水*2の割合が名古屋市の6%に比べてバンコクは30%と多いです。
名古屋市からタイへは、1978年から専門家を派遣しています。有償資金協力の円借款が1979年から2000年まで7次にわたって上下水道事業の支援をしている他、無償資金協力で水道技術訓練センターを立ち上げ、それも支援してきました。また2010年から第8次が始まり、名古屋市は配水管理においての技術支援をしました。
浄水場の水は飲めるのですが、管を通る間に水が汚れてしまいます。その要因となる管の劣化や水圧の不安定さをなくすため、管を取り替えられればいいのですが、道路の掘削許可が下りない。ただ、漏水があると道路も悪くなってしまうので、緊急修繕といって縦穴を掘って直せますが、線的に掘って管を替える許可が下りず、計画的な管の取り替えが難しいのです。

水道管布設工事現場視察(推進工事の立坑)(タイ)
水道管布設工事現場視察(推進工事の立坑)(タイ)

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支援の成果や今後の方向性
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遠藤:管の調査や整備については、順調に進んでおり、大規模な処理場も建設中ですが、職員や市民の、下水処理に対する考え方を変えていく必要があるように思いました。下水道に捨てられた大量のごみがポンプにつまって止まってしまうこともあるようです。でもふり返れば、名古屋の下水道も昔は集めて流すだけでしたからね。メキシコは、今はまだその状態なのかもしれませ
ん。だからこそ、意識改革を図ることも大切です。

安田:以前の派遣で、キャンディ市で下水処理施設の建設予定地探しを手伝っていましたが、実際に処理場の建設が始まったと聞きました。やはり、せっかく築いたお互いの協力関係を継続していくことが大切です。

高倉:信頼関係が必要だと思います。そのためには、誰か一人でも長期的に現地に滞在し、相手側と信頼関係を築くことが大切です。
また、名古屋には、技能の実地訓練ができる研修センターがありますが、自治体の中でも割と早くに造られたもので、かなり先進的だったと思います。それをモデルとした研修センターが今、現地で建設中です。2年後に完成予定で、このセンターで教えられる現地の人材を育成していくことも大事な支援です。

杉山:タイでも、新しい管からの漏水が多く、ほとんどが施工の質の問題でした。写真を撮ってしっかり管理するなど施工時のルールを決め、それを守らない業者は入札に参加させないなど、厳しく管理しているようです。現地とは協定を交わして今後の協力体制も取れていますし、他にもSNSでグループをつくり、現地と情報交換を続けています。

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将来的な目標や支援の今後について
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遠藤:相手国の歴史や文化、組織をきちんと知った上で支援の仕方を考えないと、それを持ち帰ってもらった時に成果に結びつかないのではないかと思います。国が違えば組織も違います。組織としての課題を持って日本に研修に来てもらい、自国で成果が出るような形を作っていかなければいけない。

水質試験所での水質試験状況の確認(メキシコ)
水質試験所での水質試験状況の確認(メキシコ)

安田:現地には、日本の国旗が入った立派な機械が入っていても、必要な部品がなかったり、薬品が買えなかったりして、ほぼ使われていないものもありました。日本の技術をそのまま導入するのではなく、現地で使えるもの、現地向けにカスタマイズした、メイドインジャパンのきめ細かい支援をしていけたらいいと思います。また、名古屋市全体でスリランカの支援にかかわっていけるといいな、とも思います。

高倉:水道事業は、「技能」と「技術」の両輪で動いていくものです。現在は派遣されるのは技術者の人間ですが、実際の現場でボルトを締めたりする職員が現地に行って、技能的な指導にかかわるのも、大切だと思います。

杉山:私もそう思います。ミャンマーで漏水調査の技能を教えた経験がありますが、それはまさに現場の職員が日常業務でやっていることです。彼らがいてくれたら、もっと教えられることがあったのではないかと思いました。またタイでは、設計と施工側の人的交流が少ない。よりよいものを作るためにも、積極的に交流し、セクショナリズム(排他主義)を払拭してほしいです。

遠藤:現地への派遣は、日常の中では経験できないようなことが経験でき、自分の視野の広がりにもつながるので、ぜひ、多くの職員に積極的にかかわってほしいと思っています。

*    *    *

 上下水道局で国際協力を担当する柵木(ませぎ)由美参事は「名古屋市の上下水道は、新たに水道管や下水管を布設する拡張時期は終わり、これからは管理という段階に入ってきている。実際の布設に関わるという経験ができる職員が少なくなってきており、我々の技術の継承は大きな課題となっています。開発途上国に職員が行き、そこで実際に水道・下水道事業の立ち上げや拡張といった技術指導にかかわることは、事業の基本をまさに実地体験として学ぶことができ、とてもいい機会となっています」と話します。
人々が生活し、生きていくために必要な水道事業において、高い技術を持つ名古屋市の上下水道局。職員の皆さんが持つ技術力という「財産」を継承し、国際貢献として多くの国々で役立てられることを期待しています。

 

家族での滞在

スリランカに長期派遣となり、家族で現地に滞在した安田さん。印象深いエピソードを紹介してくれました。

安否確認メール

 スリランカ・日本親善野球大会(前列両端が安田さんの息子さん)

スリランカ・日本親善野球大会(前列両端が安田さんの息子さん)

私が行ったときはまだ、スリランカ国内で内戦をしていました。自爆テロもあり、家族で家にいると、ドーンという音がして。「何だろう」と子どもと話しているうちにJICAから安否確認メールが飛んできて、さっきの音は爆弾だったのだとわかりました。でも子どもには「花火じゃないかな」とごまかしていました。

2004年12月のスマトラ島沖地震
地震による被害はほとんどありませんでしたが、押し寄せた大津波で、死者・行方不明者約4万人の被害が出た他、50万人ほどが避難生活となりました。水道管も切断され、下水のポンプ場が水をかぶって止まってしまったので、そちらの復旧にも急遽かかわりました。その他、避難してきた人たちの避難先となった学校やお寺などのトイレ事情を改善するため、日本へのバキュームカー調達要請や両国間の調整をするなど、緊急津波災害支援の対応に追われました。
いろいろありましたが、そんな中でも、私の子どもが通う日本人学校の子たちと、スリランカのナショナルチームの子たちとで野球の試合をするなどの交流もできました。帰国する時には、現地で一緒に働いた彼らとは二度と会えないのかも、と思うと、大泣きしてしまいました。

 


メキシコシティからの研修生にインタビュー!

今年 7月、名古屋市の「研修生受け入れ」事業として、姉妹都市のメキシコシティから、6名の研修生を受け入れました。2 1日間の滞在の間に期待すること、彼らの思いなどを聞いてきました。

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イシドロさん(メキシコシティ上下水道局 北部区域管路高圧洗浄課長)
メキシコシティの上下水道局から派遣されました。今回の研修では、名古屋の下水のリサイクルシステムについて勉強しています。
メキシコシティの人口は約 900万人。水の確保はできていますが、年々増加する人々に、今後水不足が発生する可能性もあります。さらに、海抜 2,240メートルに位置し、また四方を高い山に囲まれた盆地であるため、水道水や汚水の処理が難しい。地下水の汲み上げなどによる地盤沈下も問題となっています。
その他、シティの排水管はとても古く、2 0世紀初頭のものが現在でも使われており、かなり老朽化が進んでいるので、現在は、カメラなどを使用して地下の排水管の状況をチェックし、どのような技術が必要なのか検討中です。
さらに、水を大切にするという意識啓発の他、下水の処理率を上げ、工業用水や農業用水、公園整備などで積極的に活用していきたいと考えています。

 堀川をきれいにするための市民活動(堀川 1000人調査隊)について説明を受ける研修生

堀川をきれいにするための市民活動(堀川 1000人調査隊)について説明を受ける研修生

マリベルさん (メキシコシティ 水文化推進アドバイザー)
私は、子どもたちに、水を得ることの難しさや水の大切さについて伝える仕事をしています。例えば、水を無駄遣いしないよう、コップ一杯の水で歯磨きをしましょう、といった啓発です。メキシコシティはすり鉢状の地形という事もあり、水を配ることがとても難しいのです。
また、配水と共に下水処理もとても大切な仕事であることを知ってほしいと思っています。下水の処理率を上げ、より多くの再生水を利用できたらいいなと思っています。現在、市内のソチミルコという町では、こうした再生水を積極的に利用しています。
今回の研修では、名古屋市の子どもたちへの水に関する教育に、大変興味があります。名古屋市では小学生のうちから水の大切さを学ばせ、さらに下水処理施設への見学を行っていました。こうした実施研修をメキシコでも取り入れ、小さい頃から水を大切にする意識を育てていきたいです。

 


*1 「国連ミレニアム開発目標報告2013」(国際連合広報センターウェブサイトhttp://www.unic.or.jp/ より)
*2 配水管などからの漏水や違法な使用により、収益につながらない水。ただし名古屋市では、6%の約半分は、火災の消火などに使用されている。