2024.03.27
【特集】「情報」のバリアフリーで、解き放つ「こころ」のバリア
ー想像してみましょうー
あなたは、車いすに乗っています。気温が高く、喉が渇くので、自動販売機に向かいます。でも、飲みたいジュースは一番上の段にあり、自分で立ち上がれず、手が届きにくいため、ボタンを押すことができません。
「多様な人が暮らしている」ということを考慮しないことによって作り出されたもの、それが「バリア=障壁」です。このバリアを取りはらうことは、多文化共生へつながる道の一筋となります。例えば上の例で言えば、ほしいジュースのボタン、取り出し口、コイン投入口などが、誰もが利用しやすい位置にある自動販売機を設置し、物理的に解決すること。そうすれば、あなたは車いすに乗ったままでジュースを買うことができるようになります。このように、その人が「バリア」と感じることを「取りはらう」ことが、多様な人にとって暮らしやすい社会につながる、これが、「バリアフリー」です。
外国人が日本で生活するうえで必要な情報を入手するとき、「ことば・文化・制度」の3つのバリアがあることで、社会への「こころ」のバリアができてしまうことがあります。これらのバリアを取りはらうため、社会ではどんな取り組みがあるのでしょうか。外国人を対象とした、「情報のバリアフリー」の取り組みについてご紹介します。
★本特集は3回の連載で記事を投稿していきます。
【vol.1】「多言語での情報発信 ~言葉と、ひと工夫を添えて~」
名古屋市内の外国人住民数は92,509人(令和5年12月末現在、名古屋市)。これは市内人口の約4%を占め、年々増加傾向にあります。その内訳は、中国、韓国・朝鮮、ベトナム、フィリピン、ネパールと多様性に富み、これらの異なる母語を背景に持つ人々を対象に情報を提供するには、「ことば」のバリアを取りはらう必要があります。
外国人への情報発信を行う名古屋国際センターのウェブサイトでは、これまで9言語(日本語・英語・ポルトガル語・スペイン語・中国語・韓国語・フィリピノ語・ベトナム語・ネパール語)で情報発信をしてきました。2024年からは、インドネシア語とタイ語も加わりました。情報カウンター窓口でも11言語で対応しています。
また、名古屋市のウェブサイトでは、2022年11月より多言語表示ができるようになりました。パソコンやスマートフォン等、使用端末の言語設定に合わせ、ページ全体を自動的に機械翻訳することができます。NICと同じ9言語に対応しているほか、その他の言語を選択することも可能です。
【外国人相談窓口コンシェルジュ】
市内で外国人市民が多く住む地域の4つの区役所(千種、中村、中、港)では、多言語対応のコンシェルジュを配置し、外国人市民の窓口案内や通訳などに応じています。中村区役所の外国人総合案内では、月曜から金曜までベトナム語・ネパール語のコンシェルジュが対応にあたっています。ともに日本での留学経験を活かし、現在コンシェルジュとして活躍されているベトナム出身のレ ティ トゥイ ハンさんとグェン ティ ハーさんにお話を伺いました。
コンシェルジュは、来所した外国人の問い合わせを受け、手続きが必要な窓口まで同行し、通訳します。ハンさんとハーさんは、1日あたり5~10人程のベトナム人に対応しています。ベトナムの他にも、中国、韓国、ネパール、フィリピン、スリランカの出身者が来所するため、英語やボディランゲージも駆使しながら対応しているそうです。
通訳の内容は多岐にわたりますが、目立つのは保険料の支払い、在留資格の更新や家族の呼び寄せに伴う必要書類の取得、転入・転出の届、児童手当の手続きなど。特に保険料の支払いについては、説明に労力を要するそうです。「ベトナム人は私費留学生としての来日が多く、学費や生活費を母国に頼らず、自分で稼ぐ場合が多いです。そのため、長期休暇に一所懸命アルバイトをしたら保険料が高くなってしまい、支払いができずに相談に来所される方もいます。なかには1年間滞納してしまい、20万円くらいになってしまう方も」とハンさん。日本では、保険料は前年の収入から算出されるという制度について説明し、窓口で分納の手続きについて丁寧に通訳します。
【通訳、プラスアルファの工夫】
ハンさんもハーさんも、通訳する際に工夫していることがあります。第一に、来所者の待ち時間を利用して事前に聞き取りを行うこと。こうすることで相談内容を整理することができ、窓口での通訳がスムーズになるそうです。第二に、これまでの窓口対応で、職員から説明のあったことを記録に残し、次回の通訳に役立てるということ。「自分自身がきちんと内容を理解し、『前にもこういうケースがありましたよ、外国人だから聞かれるのではなく、日本人も同じことを聞かれるから、一緒ですよ』と、間に入り柔らかく伝えることで、納得し、安心してもらうように心がけているそうです。
また、来所者自身がコールセンターに電話して問い合わせる必要があるときは、「あなた次第で、この制度を受けられるかどうかが決まる。がんばって、自分でやってみましょう。聞かれる内容を事前にまとめて、準備しましょう」と声がけしています。さらにハーさんは、簡単な日本語とベトナム語を織り交ぜながら話すようにしているそうです。このように、日本社会での自立を促し、励ましながら寄り添うようにしています。
通訳として情報を伝える際には、言葉の正確さだけではなく、相手を思いやる様々な配慮が必要です。来所する外国人市民の置かれた背景や心情をくみ取り、寄り添うコンシェルジュのハンさんとハーさん。「母国出身の人が来てくれて、役に立てるとうれしいです。私たちも頑張って通訳します。」と笑顔を見せてくれました。