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NIC NEWS Web

<特集>「言葉」を考える/コミュニティ通訳とその前提

2026.10.17

名古屋国際センター(NIC)の情報カウンターでは多様なサービスを提供しています。日本語、英語はもちろんのこと、多言語で対応できるよう、各言語スタッフが控え、内容によっては専門の職員が相談を受ける体制も整えています。

NICでは、昨年度、約9,100件の問い合わせを受けました。内訳としては、外国人が日本に滞在する上で必要な在留資格に関するものが最も多く、社会保険や税金などの役所での手続きに関するものが続きます。こうした公共サービスに関係する問い合わせが3,000件以上にのぼりますが、それ以外にも実に様々な内容が寄せられています。愛知県に住む外国人数は約35万8千人(うち名古屋市 約11万人)。その数は年々増加し、総人口の5%に迫る勢いです。この数字を見ると、NICを利用する外国人は一部であり、実際には地域や職場、学校といったつながりの中で解決されているケースもあれば、困りごとを誰にも相談できずにいる状況もあるのではないかと考えられます。

前回のNIC NEWS Webの特集記事では、通訳者として外国にルーツをもつ人々を支えながら、労働者協同組合を設立した方をご紹介しました。今号では、生活の様々な場面において求められる、いわゆる「コミュニティ通訳者」の「いま」について、大学でコミュニティ通訳学コースの教育に携わる、ブラジル出身のスエナガ エウニセさんから伺います。

<今回お話を伺った方>
スエナガ エウニセ さん
愛知県立大学 教養教育センター 准教授
ブラジル サンパウロ大学卒業
東京大学大学院で修士、博士学位取得
平安文学、ブラジル俳句(ハイカイ)研究 多数
日本語小説をポルトガル語に翻訳


日本語でのコミュニケーションが難しい住民を、医療、司法、教育、行政、福祉といった公共サービスの場で手助けするコミュニティ通訳ですが、愛知県立大学大学院国際文化研究科にあるコミュニティ通訳学コースではどのような内容の教育を行っているのでしょうか。

「このコースが始まったのは2022年です。カリキュラムは『理論』『実践』『研究者としての能力』の3要素を含み、多文化共生論、現場実務に関する知識、事例研究を含むコミュニティ通訳研究などに関する科目があります。私はポルトガル語を言語ペアとする学生を対象に『コミュニティ通訳翻訳演習』と『国際コミュニケーション』の授業を担当しています。『コミュニティ通訳翻訳演習』では、司法、教育、行政、医療など需要の多い分野において、実際の現場をイメージできるシミュレーションを行います。例えば、司法分野の裁判。昨年度は典型的な事例を使って、裁判を最初から終わりまで一通りモデルシミュレーションするということを行いました。」


「学生は『コミュニティ通訳実習』で同時通訳や逐次通訳訓練を行ったり、学校、医療機関、弁護士事務所などで実習を行いますので、その指導も担当しています。たとえば病院ですと、患者、医師、実際そこで仕事をしている通訳者の許可が必要ですが、許可がもらえたら現場を見ることができます。学生が実習先で実際に通訳をすることは少ないようですが、現場の様子を知る良い機会になっています。」
すでに1期生はコースを修了しているかと思います。修了後はどのような道に進んでいますか。
「このコミュニティ通訳学コースには様々な対象言語がありますが、私が担当するポルトガル語の学生のうち、2人がコースを修了しています。1人は外国人住民にかかわる仕事に就いています。直接的ではないかもしれませんが、ここで学んだことが生きてくる仕事ではないでしょうか。もう1人は大学の非常勤講師などをして活躍しています。」


この教育プログラムを通して、コミュニティ通訳は今どの段階にいると感じていますか。
「このコースはコミュニティ通訳者の養成だけでなく、社会インフラとしてのコミュニティ通訳に理解をもつ人材の育成を目指していますが、行政にかかわる人たちを含め社会全体にコミュニティ通訳の重要性を知っていただきたいと思っています。『言語における権利』とでも言ったらよいでしょうか、日本やブラジルでは、コミュニティレベルでの通訳者の必要性があまり認識されていないように感じられます。

オーストラリアはこの点でずっと先を行っているということを知りました。愛知県立大学では、オーストラリアやスペインなどの海外協定大学と協力しながら、コミュニティ通訳学の教育や研究を進めていますが、その中でオーストラリアのRMIT大学の先生方が最初に本学に来た時に、『日本語を話さない、日本に住む外国人も、日本人と同じサービスを受ける権利がある』ということをおっしゃっていたのです。オーストラリアでは、100以上の言語の通訳者を病院やいろいろな公的サービスに紹介できる仕組みがあるそうです。 

日本は、今のところ、そうではない。ブラジル人である私も、ずっと、日本に来て日本語を話すのは当然と思っていました。そして、私はそれまで通訳をつけるというのは、Favor (ご厚意) だという考えがありました。もちろん、日本に住むにあたって日本語や日本文化を学ぶことは大切だと思っていますが、日本語を話せなくても同じ公共サービスを受ける権利があるのだと、その時にはっと気づきました。」


「しかし、役所に来た外国人に通訳を提供しましょうと言う以前に、この社会の中に人権意識が十分根付いているのか、という懸念はないでしょうか。外国人だけでなく、日本人も、公共サービスを受けるとか、健康的な生活を送るとか、いろいろな面で、自分の権利を主張せずに我慢してしまうところがあるかと思います。日本人も外国人も、皆、まず人権が大切だという意識が必要です。

今目の前に困っている人がいるような状況なので、コミュニティ通訳の重要性を分かっていただきたいですが、まず人権ってなんだろうっていうところから始める、人権教育をちょっとやってほしいなと思います。」


 今回は、大学で行われているコミュニティ通訳者養成の様子と、その教育を通して見えてきた、コミュニティ通訳が社会に根付くための前提について、お話を伺いました。

それぞれの国には公用語があり、多くの行政手続きや公共サービス、民間サービスはその公用語で提供されています。しかし、国境を越えて生活する人々が増え、多文化共生というキーワードが飛び交う現代社会では、公用語のみを前提とした運用で様々な場面に対応することが難しくなってきています。特に、公共サービスの情報は、その国や地域コミュニティで暮らすために大切なもののはず。コミュニティ通訳者が果たしている役割は、単に言葉を訳して情報を伝えているのではなく、そのコミュニティに入っていく門を開けることでもあります。そうした役割をもつコミュニティ通訳が、日本の社会で「あたりまえ」の存在として認識されるためには、人権意識が必要という見方を教えていただきました。  

  戦後の日本の人権教育は、紆余曲折を経て、2000年の「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」制定をきっかけに、さらに大きく変化しました。小学校、中学校、高校そして大学で、その新しい教育を受けた子どもたちが大人になる時、誰にとっても住みやすい社会になっていることを願います。

豆知識:オーストラリアの翻訳・通訳資格認定機関について

オーストラリアには1977年に設立されたNAATI(National Accreditation Authority for Translators and Interpreters)という翻訳・通訳資格認定機関があり、通訳者・翻訳者の基準を決定するとともに、通訳者、翻訳者、コミュニティ言語支援員試験など、複数の資格・認定試験を提供している。さらに、有資格・有認定の通訳者・翻訳者を検索できるシステムを提供するほか、通訳・翻訳業界全体の支援にも取り組んでいる。

NAATIの最新報告書(2024-2025年)によると、正式な通訳・翻訳訓練を修了して、資格または認定を取得した人は、手話、先住民族言語を含む180言語で8,803人に上っている(2025年6月30日時点)。試験は、通訳・翻訳それぞれについてレベル別に設けられ、通訳ではさらに会議、法律、医療の専門分野ごとの試験も設けられている。


 

次回は、同じく、スエナガさんに伺った、ブラジルで学んだ日本文学、日系人コミュニティの様子、ブラジル俳句についてのお話をお届けします。  


今回の訪問先 愛知県立大学 長久手キャンパス

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