2026.03.26
2月28日(土)、名古屋国際センター別棟ホールにて、地域の国際化セミナー「外国人の『うわさ』のウソ?ホント?」~事実に基づく情報と今後の共生社会とは~」を開催しました。本セミナーは、社会情勢や時代の変化を踏まえたテーマで、毎年開催しているものです。
日本で暮らす外国人が増加する中、外国人に関する政策や情報がSNSやメディアで取り上げられる機会も増えています。関心が高まること自体は望ましい一方で、事実とは異なる情報や誤解が広がり、それに基づく感情や判断が社会の分断につながる可能性もあります。
こうした背景を踏まえ、基調講演では外国人に関する情報の真偽をデータに基づき検証し、正しい情報を見極める重要性について学びました。続くパネルディスカッションでは、日本で生活する外国人の職場や地域での取り組みを紹介しながら、共生社会のあり方について考えました。
基調講演「日本の外国人政策の現在地」
講師:橋本 直子 氏(国際基督教大学教養学部政治学・国際関係学デパートメント准教授)
2024年4月より現職。専門は難民・移民政策、国際法、国際機構論。大学院卒業後、外務省、国際移住機関、国連難民高等弁務官事務所、法務省などで15年近く、人の移動、人権問題、難民保護、移民政策等の分野で実務経験を積む。
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橋本氏は、外国人をめぐる議論では、SNSなどで広がる情報を公的データと照らし合わせてファクトチェックを行い、事実に基づいて考えることの重要性を指摘しました。
日本社会に欠かせない外国人の存在
日本では少子高齢化が進み、労働力や社会保障制度を支える担い手の不足が懸念されています。外国にルーツを持つ人々は産業を支え、社会保障制度を維持する上で不可欠な存在です。
日本の法律には「移民」の明確な定義はなく、自民党は「入国時点で永住権を持つ人」を移民としています。そのような人は日本の入管法上原則的にいないため「日本は移民政策を取っていない」と説明されていますが、実際には技能実習制度や特定技能制度などを通じて、多くの外国人が中長期的に日本で生活しています。現在、90日以上在留する外国籍の人は約400万人に上り、早ければ2040年には人口の約10%に達すると推計されています。
SNSで広がる情報と実態
SNS上では、「外国人急増」「不法滞在者増加」「外国人犯罪増加」「健康保険や生活保護で外国人ばかり優遇されている」といった情報が広がっています。しかし公的統計を確認すると、実態とは異なる点も多く見られます。
中長期在留者は緩やかに増加している一方、急増しているのは主に観光客です。不法滞在者は1993年をピークに減少傾向にあり、外国人による凶悪犯罪の増加も確認されていません。
また、外国人は若年層が多いため、医療費の利用額は相対的に低い傾向があります。さらに、生活保護についても受給は永住者などに限られており、受給世帯数の大幅な増加は見られていません。
共生社会に向けて
日本は鎖国を終えてまだ200年足らずの歴史の中で、言語や文化の均質性を前提とした社会を築いてきました。しかし外国人住民の増加に
伴い、多様な人々と共に暮らす社会のあり方も変化していくことは避けられません。
世界における移民政策には「同化政策」「分離政策」「多文化主義」「統合政策」の4つのモデルがあります。西欧諸国の多くが模索しているのは、文化の違いを認めながら同じ社会の一員として共に生きる「統合政策」です。
外国人住民は文化や言語の違い、価値観の違いを抱えながらも、労働者や地域住民、保護者、納税者として社会を支える存在です。共生とは違いをなくすことでも、一方だけが我慢することでもなく、互いの違いを理解しながら社会を共に支えていく営みと言えます。
今後の取り組みと制度整備
2026年1月23日、政府は「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を更新しました。日本語教育や生活ルール学習プログラムを制度化し、政府として整備していくことが初めて、主要な柱の一つに掲げられました。
日常生活では、ゴミ出しルールや風習・言語の違いなど、地域ごとに特性や課題もあります。外国人に守ってもらいたいルールや規範を、日本社会側がわかりやすく伝えていく努力も重要です。人口減少が進む日本では、外国人との共生は今後ますます重要になります。中央政府、地方自治体、NGO・NPO、雇用主、地域住民、そして外国人の間の明確な役割分担に基づく多層的な連携関係を築いていくことが、誰もが安心して暮せる社会につながっていくと考えられます。
パネルトーク
登壇者:
コーディネーター 橋本 直子 氏
パネリスト
ポッダル プロビル クマール 氏(みどり多文化共生ボラネット代表)
バングラデシュ出身、日本在住約30年。化学メーカー勤務。国家資格であるプラスチック成型技能士。同ボランティア団体は、日本語教室や交流会などを実施。
グルン プスパ 氏(株式会社マザーズ・グローバル推進部)
ネパール出身、日本在住9年。2023年12月に同社入社。外国人スタッフの相談対応や生活指導、マニュアルの翻訳や研修などを担当。
保坂 龍彦 氏(株式会社アイシンBR YYSystem事業推進部YYSystem事業推進グループグループ長)
人事経験を経て2023年度より現職。聴覚障がい者や情報コミュニケーションで困難を抱える人々を支援する音声認識アプリ「YYSystem」の導入促進や社会実装、活用支援に関する企画・促進に従事。

パネリストそれぞれの職場や地域での活動を通し、外国人が日本社会で安心して暮らし、働くための工夫や取り組みを話し合い、共生社会をつくるために私たち一人ひとりができることを考えました。
クマール 氏
幼少期にテレビで見た日本の航空会社のCMをきっかけに日本に憧れ、いつか行きたいと思うようになりました。来日当初は日本語が全く分からず苦労しましたが、職場の先輩が週末に資格取得の勉強に付き合ってくれるなど、多くの人に支えられて今の自分があります。ただ、「場の空気を読む」ことや「建前」など、母国にはない日本特有の社会的慣習には今でも戸惑うことがあります。
私が代表を務める「みどり多文化共生ボラネット」は、外国人と日本人が快適で安全に暮らせるよう交流の場を作ることを目的に活動しています。その一環として、外国人の子どものために始めた日本語教室には、日本人の子どもの参加も増え、子どもたちの居場所へと発展しています。また毎年実施している交流会では、地域の人々が文化や価値観の違いを知り、互いに理解し合うことの大切さを感じています。
共生とは違いをなくすことではなく、違いを認め合いながら、人と人として向き合い共に社会をつくっていくことだと思います。
プスパ 氏
株式会社マザーズ(詳細はこちら)では、外国人スタッフのサポートを担当しています。職場や生活の困りごとへの相談対応のほか、研修では自転車の交通ルールの説明や、米や油などの食品価格を母国通貨で伝えるなど、自分の経験を生かし理解しやすい工夫をしています。
子どもが病気の際に急な休暇も気持ちよく取得でき、安心して働ける環境が整っています。日本人・外国人に関わらず、人として平等に接してもらえることに喜びを感じています。
また地域の方々は、介護現場で働く外国人の姿を知る機会が少なく、不安を感じることもあると思います。そこで、子ども食堂や防災訓練に外国人スタッフも参加し、互いの文化や考え方を理解することで不安や誤解を減らし、共に生きる社会につなげていければと考えています。
保坂 氏
過去の人事業務において、多くの外国人スタッフと接してきた経験から、困りごとの本質は言葉や文化、制度の違いだけでなく、それらを整理して伝える「仕組みづくり」にあると感じています。新入社員教育は日本人向けにはOJTなどが整備されていますが、外国人向けには十分とは言えません。
仕組みづくりの改善に取り組む工場では、長く働く外国人スタッフが増え、互いを理解しようとする姿勢が現場から生まれる成果が見られました。日本人・外国人双方へのヒアリングでは、いくつかの認識のずれも明らかになりました。日本人は「一度説明すれば伝わる」「見て覚えるのが普通」と考えがちですが、外国人には分かりにくく、雰囲気を悪くしたくないという思いから、分かったふりをしてしまうこともあるそうです。
文化や国籍の違い以前に、人と人として向き合い、言葉で伝え合いながら相手を理解しようとする姿勢が何より重要だと感じています。
最後に、参加者から寄せられた質問に、橋本氏が答えました。
Q. どうしたらフェイクニュースに騙されずに済むのでしょうか?
A. まず情報の出所を確認することが重要です。政府のデータは存在しますが、一元化されていなかったり不足している部分もあるため、その隙間を悪用した誤情報が広がることもあります。
また、日本人一般家庭の家計が苦しい中で羽振りが良さそうに見える外国人観光客を見て「ずるい」と感じることもありますが、「外国人」とひとくくりにせず、個人レベルで知り合うことも大切です。
Q. 日本語教育はどうしていったらいいのですか?
A. 日本で生活し働く外国人にとって、日本語教育は非常に重要です。これは、ヨーロッパの政府関係者から「もっと早く言語教育を整備すればよかった」と聞いた経験に基づくものです。言語を習得できぬままでは就職が難しくなり、社会的周辺化や分断が進んだ地域もあります。ただし、これは同化政策とは異なり、公的な場では日本語でやり取りできることが重要ですが、家庭では母語や母文化を尊重すべきでしょう。実際イギリスでは、母語や母文化を継承する人ほど、受け入れ社会に貢献できるという研究結果もあります。
制度面では認定日本語教育機関や登録日本語教員の仕組みが整いつつありますが、日本語教師の待遇改善も不可欠です。人材不足の中で待遇が改善されなければ、担い手は増えません。
Q. 一人ひとりがどう変わったらよいですか?
A. 日本人の良いところであり課題でもあるのは、「言わなくても分かってほしい」という文化です。生活ルールを守ってもらうためには、その内容が明確に伝えられていることが前提です。外国人が増える社会では、守ってほしいルールや大切にしている文化を暗黙の了解にせず、分かりやすく伝えることが必要です。日本社会も今後、その点で一歩踏み出す必要があると考えます。




